租税条約

1. 租税条約の意義

 租税条約とは、正式には、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のためのA国とB国との間の条約」又は「所得に対する租税に関する二重課税の回避のためのA国とB国との間の条約」と呼称されている。

(1) 居住地国課税と源泉地国課税
 企業は、同一の所得について、一方では本国における全世界所得を対象とするグローバルな課税(居住地国課税といわれる)を受けると同時に、外国においてその国で生じた所得に対する課税(源泉地国課税といわれる)を受けることになる。したがって、企業が国際間にまたがる取引を行った場合には、必然的に二重課税を受ける結果となる。租税条約は、条約の当事国、すなわち、居住地国及び源泉地国が、両国間にまたがる経済活動あるいは商取引についてその課税の態様を明らかにし、二重課税排除のルールを定めるものといえる。

(2) ニ重課税排除の方式
 通常、源泉地国で課税された租税を自国の租税から控除する方式(外国税額控除方式という)又は源泉地国で生じた所得を課税の対象から除外する方式(所得免除方式という)によって二重課税の排除を行うこととしている。わが国は、外国税額控除方式を採用している。

(3) わが国の租税条約の現状
 わが国では現在55カ国との間で租税条約を締結している。地域別に締約国を分類すると次の通りである。

2. 租税条約の一般規定

(1) 租税条約と国内法
 租税条約の規定と国内法の規定とが競合する場合には、条約の規定が優先的に適用される。法人税法及び所得税法において、租税条約に定める所得の源泉に関する規定が、国内法の規定と異なる場合には、租税条約の規定によることが明定されている。租税条約に定める軽減税率の適用の仕方、条約に定める免税の適用の仕方等については、「租税条約の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律」において規定されている。租税条約は、相手国の居住者(個人と法人を含む)に対する自国での課税関係を規定するものといえる。
 例えば、わが国で締結した租税条約についていえば、相手国の居住者はわが国において非居住者又は外国法人として課税を受けることになる。わが国の国内法では、個人については、居住者とは、国内に住所を有するもの、又は継続して1年以上住居を有するものとされ、法人については、国内の本店又は主たる事務所を有するものが内国法人、すなわち居住者とされている。また相手国の居住者に該当するか否かは、相手国の国内法の定めによって判定される。このようなことから、居住者の判定に関し、わが国と相手国との判定基準が異なるために、双方の国の居住者に該当する、いわゆる双方居住者が生じることがある。個人の場合には、通常、1)恒久的住居の有無、2)重要な利害関係の中心の場所、3)常用の住居の有無、4)納税者の国籍等による振分け基準により、いずれかの居住者に振り分けられることになる。
 わが国の場合、双方居住者の振分けにより、相手国の居住者とされた者は、その者のすべての所得について非居住者としての課税を受けることになる。なお、法人に関しては、わが国の条約例においては、本店又は主たる事務所の所在地が、その居住性の判定基準となっているので、実際上双方居住者が生ずることはない。

(2) 租税条約の適用範囲 (適用の対象となる税目)
 わが国の場合には、原則として所得税及び法人税を対象としているが、相手国に住民税に相当するものがある場合、又は、現在住民税は存在しないが、将来このような税が導入された場合に、これを対象税目に含めるときには、わが国の住民税を対象税目に含めることとしている。

(3) 租税条約の解釈
 租税条約の規定は、概して簡素な規定振りとなっているので単なる文理解釈にのみ依存することは必ずしも適当でないケースがみられる。したがって、租税条約の解釈に当たっては、その規定の有する趣旨、目的を考慮することが必要である。

3. 事業から生ずる所得に対する課税

(1) 事業所得課税の原則
 企業が外国で事業を行う場合、企業が、その外国に恒久的施設(Permanent establishment)を有していないときは、その事業から生ずる所得についてその国(源泉地国)では原則として課税されない。
 すなわち、外国における事業から生ずる所得がある場合であっても、支店、事務所等の恒久的施設がその国に存在しないときには、その所得に対する課税がないのが一般的といえる。このように事業から生ずる所得については「恒久的施設なければ課税せず」、とするのが国際的な課税ルールとなっている。
 さらに企業が源泉地国において恒久的施設を有する場合、その課税は、恒久的施設に帰せられる所得についてのみ行うとする課税方式(帰属主義)と事業から生ずる所得が恒久的施設に帰せられるか否かにかかわらず、源泉地国で生じたすべての所得を課税対象とする方式(総合主義)とがある。わが国が締結した租税条約は、その大半が帰属主義を採用している。わが国の国内法は、総合主義による規定となっているが、条約優先の原則により、実際の課税関係は、帰属主義による場合が多くなっている。
 なお、OECDモデル条約においては、「自由職業所得」条項が2000年4月の修正により削除され、それにより従来その条項の対象となっていた個人による「独立の性格を有する活動」は「事業」の中に含まれるものとされ、事業から生ずる所得としての課税をうけることとなる。

(2) 恒久的施設
イ.恒久的施設の意義
 恒久的施設とは、事業を行う一定の場所とされている。具体的には、支店、事務所、工場、作業所、天然資源の採取場所、建設工事現場等が挙げられる。また、事業を行う一定の場所としての物理的施設がない場合であっても、一定の代理人を有することで、機能的に支店等を有する場合と同様の事業活動が行われる場合には、その代理人の存在をもって恒久的施設を有することになる。
ロ.恒久的施設に含まれないもの
 国内法で事業を行う一定の場所として規定されていても、租税条約にその規定がないものは、その条約の適用上恒久的施設はないこととされる。また、事務所等の物理的施設が存在する場合であっても、本店のために商品の購入のみを行う場合、あるいは、情報収集、その他の準備的、補助的な活動のみをおこなっている場合には、恒久的施設はないことになる。
ハ.芸能人課税におけるみなし恒久的施設
 芸能人の所得は、その活動の期間に比して報酬が高額なことが多く、また海外での活動から得た所得を居住地国で把握することが困難であることから、源泉地国でとくに課税を行わないとする理由に欠けているとされている。また、芸能人が法人を設立し、法人形態によって興行を行う場合には、短期間の興行については恒久的施設が存在しないこととなり、「恒久的施設なければ課税せず」の原則にしたがって、源泉地国での課税の回避が可能となる。そこで芸能人の所得が法人に帰属する場合には、その所得に対して、源泉地国での課税が行われるよう、芸能人が役務提供の活動を行う場合には恒久的施設を有するものとみなす、いわゆる「みなし恒久的施設」の規定が設けられるケースがある。
二.建設工事等における恒久的施設
 建設工事等を行う場合には、その建設工事の現場の存続期間が一定の期間を超える場合に恒久的施設が存在するものとされる。
この存続期間は、国内法では12ヵ月とされているが、条約によって24ヵ月とか、6ヵ月とされているものもある。
ホ.代理人PE
 支店、事務所等が存在しない場合であっても、代理人を通して事業活動を行えば、支店等を有する場合と同様の成果が得られるケースもあり得る。
 このようなことから、物理的施設が存在しない場合であっても、一定の代理人を有する場合には、恒久的施設が存在することとされる。すなわち、本人に代わって契約締結権限を有し、かつ、これを常習的に行使する代理人がこれに当たる.一般に独立の地位を有する代理人は、この代理人PEの対象から除外される。

(3) 事業所得の範囲等
イ.租税条約上の事業所得の範囲
 一般に企業の利得はすべて事業から生ずる所得とされている。条約によっては、具体的にその範囲を明記するものもある。
ロ.独立企業の原則
 本支店間の棚卸資産の売買や支店に対する本部経費の配賦等において、価格設定や配賦を恣意的に実施することによる利益配分の操作を回避するため、事業所得算定上の原則の一つとして、独立企業の原則がある。
ハ.内部利子等の取扱い
 支店等の恒久的施設の所得の算定上、経費の配賦に関しては、その発生の場所のいかんを問わず、恒久的施設の所得と合理的に関連を有する経費はすべて控除できることになっている。ただし、ここでいう経費とは恒久的施設を含めてその企業自体が企業の外部から調達したものに限定されており、いわゆる内部取引に係るものは除外される。
二.単純購入非課税の原則
 商品の販売益は、購入から販売までの企業の一連の事業活動の結果として稼得されるものであるが、購入の時点ではその売却は未だ実現していないこと、販売行為がその所得の実現により直接的に関与していること等の理由から、独立企業の原則の例外として、購入等の調達活動からは所得が生じないものとされている。このようなルールが単純購入非課税の原則といわれている。

4. 不動産所得に対する課税

(1) 不動産所得課税の原則
 不動産所得とは、不動産の貸付けから生ずる所得をいう。具体的には、不動産の直接使用、賃貸その他のすべての形式による使用から生ずる所得とされている。
なお、不動産の譲渡についての課税関係は、キャピタル・ゲイン条項の定めによる。

(2) 不動産の定義
 わが国が締結している租税条約では、不動産の定義については、OECDモデル条約の場合と同様に当該不動産が存在する締約国の法令によるものとされている。わが国の国内法上不動産とは、土地及びその定着物をいうものとされ、通常土地及び建物がこれに該当する。ただし、船舶又は航空機の貸付けによって生ずる所得も、国内法上は不動産所得の場合と同様の課税方式が採られているが、条約上は船舶及び航空機の貸付けによって生ずる所得は、不動産所得の場合とは別個のものとしてその課税関係が規定されている。

(3) わが国における課税関係
 わが国に恒久的施設を有しない非居住者又は外国法人がわが国において不動産を所有し、これを賃貸している場合には、その賃借人は、その賃借料について原則として20%の税率による源泉徴収を行うこととされている。
 したがって、賃貸人はまず、20%の税率による源泉徴収による納税が必要とされるが、確定申告書の提出により、最終的な所得税額又は法人税額を算定し、この税額から上記の納税済みの源泉徴収税額を控除することになる。控除しきれない額は還付されることになる。

5. 利子に対する課税

(1) 利子に対する課税の概要
 国内法上、非居住者又は外国法人が稼得する利子は、その利子が国内源泉所得に該当する場合に、わが国において課税される。租税条約においても、利子の源泉地国での課税を規定しているが、その税率は国内法による20%の税率が軽減され、10%又は15%とされている。また、利子の所得源泉ルールは、国内法では所得税法上の利子所得については債務者主義によっているが、貸付金等の利子については使用地主義によりその利子の支払の基因となった元本債務の使用の場合の所在する国を源泉地国としている。わが国の条約例においては、多くの場合、債務者主義により利子の支払者の居住地国が源泉地国とされている。
 なお、源泉地国における課税の際、その受領する利子が恒久的施設に帰せられるものは、利子条項の適用はなく、事業所得条項の適用により課税が行われることになる。

(2) 利子の定義
 国内法においては、国内源泉所得の規定の中で、利子を次の三つに区分している。
 1) 日本国の国債もしくは地方債、又は内国法人の発行する債券の利子及び国内にある営業所に預け入れられた預貯金の利子等
 2) 国内において業務を行う者に対する貸付金でその業務に係るものの利子
 3) 居住者に対する貸付金で、居住者の行う業務に係るもの以外のものに係る利子
 租税条約においては、利子条項においてその利子の範囲を定めているが、原則として、その範囲は広範に規定されているので、上記のいづれの区分の利子も利子条項の対象となる利子といえる。

(3) 償還差益に対する扱い
 償還差益は、国内法の源泉所得の規定において国内にある資産の運用又は保有による所得とされるので、申告納税により課税されることになる。なお、一定の割引債の償還差益については、租税特別措置法の規定により18%の税率で源泉徴収課税が行われることになる。租税条約においては、償還差益を利子に含めて、一般の利子と同様の扱いをするもの、あるいは条約上とくに規定がされていないものとして扱われるものがある。条約上とくに規定がないとされた場合には、その租税条約において、「条約上規定のないものは、その居住地国でのみ課税を行う」とするいわゆるその他所得条項があるときは、その償還差益について源泉地国での課税はないことになる。
 また、このようなその他条項がない租税条約の場合には、源泉地国の国内法に基づく課税が行われることになる。

(4) 公的機関の間接融資等
 外国政府に対する課税は、国際礼譲の観点から一般に免税とされている。このような国際礼譲の延長として租税条約によっては、一定の公的機関の間接融資による利子、公的機関が債務を保証している場合の利子、あるいは政府の輸出保険により付保されている債権の利子を免税している条約もある。また、一部開発途上国との間の租税条約のように、「産業的事業」といった概念を導入して、産業的事業に係る社債利子や借入金の利子を免税とするものもある。

6. 配当に対する課税

(1) 配当に対する課税の概要
 国内法上、非居住者又は外国法人が受領する内国法人からの配当については、その配当は国内源泉所得とされ、20%の税率により源泉徴収課税がおこなわれる。
 わが国が締結した租税条約においては、通常、配当の源泉地国、すなわち、配当支払法人の所在する国における課税について10%又は15%の軽減税率による旨の規定が設けられている。概して、一般の場合の配当の税率は15%、親子間における配当の税率は10%とされる。わが国の租税条約においては、親子間であるか否かについては、原則としてその持分の25%以上の所有の有無により判定することとしている。
 なお、源泉地国における課税の際、その受領する配当が恒久的施設に帰せられるものは、配当条項の適用はなく、事業所得条項の適用により課税が行われることになる。

(2) 配当の定義
イ.国内法上の配当の定義
 国内法上、配当とは、内国法人から受ける利益の配当、剰余金の分配、保険業法に規定する基金利息及び公社債投資信託以外の収益の分配とされている。他にみなし配当もふくまれる。
ロ.OECDモデル条約上の配当の定義
 標準的なものとしてOECDモデル条約に規定する配当の定義をみると、配当とは、株式、受益株式、鉱業株式、発起人株式その他の分配を受ける権利から生ずる所得及びその他の持分から生ずる所得であって分配を行う法人が居住地国である国の法令上株式から生ずる所得と同様の課税上の取扱いを受けるものと定義されている。このようにOECDモデル条約では、配当の範囲は最終的には分配を行う法人の居住地国の税法で規定する範囲との整合性が保たれるよう配慮されている。
ハ.租税条約上の配当の定義
 わが国が締結した租税条約においては、多くは配当の定義を設けているが、その定義をしていないものもある。条約上配当の定義がない場合には、配当支払法人の居住地国の税法に規定する意義を有するものとしてその解釈が行われることになる。

(3) 親子会社間配当に対する課税
イ.OECDモデル条約では、その適用税率を、一般の配当については配当の額の15%、議決権のある株式を25%以上直接保有する親子会社間の配当は5%を超えてはならない旨規定されている。
ロ.わが国が締結した租税条約では、親子会社間の配当について、多くの場合、適用税率を10%としている。税率については上述のOECDモデル条約の5%とは異なるものとなっている。また、親会社の要件は、原則として6ヵ月以上の期間、株式総数の25%以上所有することとなっている。
 なお、親子会社間の配当について、一般の配当の場合に比して低い税率を適用しているのは、子会社から外国親会社へ利益の分配を容易にし、国際間の投資の円滑化を図ること、また配当の原資である所得について、親子会社双方に対する課税いわゆる経済的二重課税の排除を容易にすることが狙いとされている。

7. 使用料に対する課税

(1) 使用料に対する課税の概要
 国内法上、非居住者又は外国法人の受領する使用料については20%の税率による源泉徴収課税が行われるが、租税条約がある場合にはこの税率は10%又は15%に軽減されている。
使用料の所得の源泉地は、国内法においては使用地主義によっていますが、わが国の租税条約では多くの場合、債務者主義が採られている。

(2) 使用料の定義
イ.国内法上の使用料の定義
 1) 工業所有権等の使用料、
 2) 著作権の使用料、
 3) 機械装置等の使用料の対価のうち国内で業務を行う者に対するその国内業務に係るものとされている。
 なお、工業所有権等の譲渡の対価、著作権等の譲渡の対価も使用料の場合と同様の課税方式を採っている。
ロ.租税条約上の使用料の定義
 租税条約においてはおおむね次の財産等の使用料又はその使用の権利に対する支払の対価が使用料とされている。
 1) 著作権(映画フィルム、テレビジョン放送用のフィルム等が含まれる)、
 2) 特許権、
 3) 商標権、
 4) 意匠もしくは模型、
 5) 秘密方式もしくは秘密工程、
 6) 産業上、商業上もしくは学術上の設備又は経験に関する情報。
 したがって、国内法で規定する国内源泉所得に関する規定でいう使用料と条約上の使用料との範囲は必ずしも同一とはいえないが、おおむね両者の範囲は一致する。
  なお、使用料の基因となる資産の譲渡対価についての課税関係は、租税条約により1)使用料の条項で規定しているもの、2)キャピタル・ゲイン条項で規定しているもの、3)その他に区分することができる。

(3) 使用料の源泉地
 上述の通り国内法では、使用料の源泉地について「国内において業務を行う者から受ける使用料で当該業務に係るもの」として、使用地主義を採用している。
 わが国が締結した租税条約においては、使用料の所得源泉ルールは多くの場合債務者主義を採用している。

(4) 文化的使用料及び工業的使用料
 東欧諸国(ルーマニア、チェコ、スロヴァキア、ハンガリー、旧ソ連等)との間の条約では、使用料を文化的使用料と工業的使用料とに区分し、文化的使用料については源泉地国での免税を規定している。
 文化的使用料とは、文学上、美術上又は学術上の著作物(映画等のフィルムを含む)の著作権の使用又は使用の権利の対価としての支払金をいうものとされている。

(5) 使用料と人的役務の提供
 使用料と人的役務の提供の対価は、観念的に異なっているが、事例によっては両者を区分するのは容易ではない。人的役務の提供の対価については、その役務提供の場所に所得の源泉があるものとされている。したがって国外における役務提供の対価は国外源泉所得とされている。使用料と人的役務の提供の対価を区分するメルクマールとしては、その対価が実費プラス通常の利潤程度のものであれば使用料に該当しないものといえる。

8. キャピタル・ゲインに対する課税

(1) 概要
 キャピタル・ゲイン(譲渡収益)に対する課税については、国によってその課税方式が異なる。これを大別すると、1)譲渡収益を課税の対象としない国、2)事業に関連して生ずる譲渡収益のみを課税の対象とする国、3)すべての譲渡収益のついての課税の対象とする国に区分することができる。
OECDモデル条約においては、1)不動産の譲渡2)事業用動産の譲渡3)国際運輸等に運用する航空機又は船舶の譲渡、4)その他の財産の譲渡に区分して規定がなされている。

(2) 不動産の譲渡
 OECDモデル条約では、不動産所得の場合と同様、当該不動産が存在する国に第一次課税権すなわち、源泉地国における課税権を認めている。
 また不動産の定義は、OECDモデル条約第6条(不動産所得条項)に規定するものと同様である。基本的には、当該不動産が存在する締約国の法令上有する意義によることとされている。また、譲渡には、売買または交換の他、収用、法人に対する現物出資、贈与等も含まれる。また、課税の方式は各締約国の国内法に定める方式によるものとされている。このような不動産の譲渡に関しては、わが国が締結した条約においても、多くの場合OECDモデル条約と同様の定義がおかれている。
 主として不動産の所有を目的とする法人の株式についてその全部または一部を譲渡した場合には、その株式の譲渡に関する課税関係は不動産の譲渡の場合と同様のものとする課税方式がある。OECDモデル条約においては、このような課税方式についての規定はないが、二国間の協議により条約上その規定が設けられるケースが多くみられる。

(3) 事業用動産の譲渡
 OECDモデル条約第13条第2項において、企業の恒久的施設で用いられる事業用資産の譲渡(恒久的施設そのものの譲渡も含まれる)については、これらの施設が所在する国に第一次課税権、すなわち源泉地国課税がある旨規定されている。

(4) 国際運輸等に運用する航空機又は船舶の譲渡
 国際運輸に運用される船舶又は航空機及びこれらの船舶及び航空機の運用に係る動産の譲渡から生ずる収益は、当該船舶及び航空機を運用する企業の所在地国においてのみ課税されることとしている。このような居住地国においてのみの課税は、国際運輸業所得における課税の免除に平仄を合わせ、国際運輸業所得相互免除の趣旨を徹底させるものといえる。

(5) その他の財産の譲渡
 OECDモデル条約第13条第4項において、「第1項、第2項及び第3項に規定する財産(不動産及び事業用動産)以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、譲渡者が居住者とされる締約国においてのみ租税を課税することができる。」旨規定され、その他の財産の譲渡収益については、居住地国でのみ課税されることとされている。
 しかしながら、わが国が締結した租税条約においては、上記のモデル条約通りこの種の資産の譲渡については居住地国においてのみ課税することとしているものもあるが、国内法の規定を反映して源泉地国でも課税ができるよう規定するものもある。
イ.株式の譲渡
 わが国の国内法上、いわゆる事業譲渡等に類似する株式については、これを一般の株式と区分して、その株式の発行法人の所在地国においても課税することができることとしている。このような国内法の規定をうけて事業譲渡等に類似する株式の譲渡に関して特別の規定を設けている租税条約もある。
ロ.滞在期間中の譲渡
 わが国の国内法上、棚卸資産以外の資産の譲渡に関してはその譲渡契約による引渡義務の生じた時の直前においてその資産が国内に所在する場合に、その譲渡収益を国内源泉所得と定めている。一方、このような国内源泉所得のうち恒久的施設を有しない非居住者についてはその非居住者が日本国内に滞在する間に行う国内にある資産の譲渡による所得のみを課税の対象としている。
ハ.著作権、工業所有権等の譲渡
 著作権、特許権、商標権、意匠もしくは模型などその他これらに類する財産又は権利の譲渡から生ずる収益の課税は、多くの条約においてこれらの権利についての使用料に対する課税の場合と同様に使用料として課税されている。

9. 芸能人等の所得に対する課税

 芸能人、職業運動家の所得に対しては、役務提供地国においてすべて課税を行うこととされている。したがって、自由職業者所得について、「固定的施設なければ課税なし」というルールや、給与所得についての、「短期滞在者免税」といったルールのように、一定の要件を満たした場合の源泉地国における免税の適用はない。
 これは、芸能人等の活動が短期間で高額の所得を稼得する性格のものであり、また海外活動による所得を居住地国ですべて把握することが困難であるといった理由によるものである。

10. その他

(1) 無差別条項
 租税条約では、多くの場合無差別条項が設けられている。
イ.国籍無差別
 相手国の国民に対する課税において、同様の状態にある自国民に対するものよりも不利に扱うことはないものとするものである。ただし、人的控除(配偶者控除や扶養控除等)は本来その居住地国において適用されるべき性格のものであるので、これらの控除は無差別の範疇には含まれない.
ロ.PE無差別
 外国支店等のPE(恒久的施設)に対する課税において、同様の活動をする自国の居住者又は法人に対するものよりも不利に扱うことはないものとする。
ハ.資本無差別
 いわゆる外資系法人に対して、自国の法人と同様の課税上の扱いを行うとするルールである。

(2) 情報交換
 租税条約の規定を適正に実施するため、また国際的取引における脱税防止のために、情報交換の規定が設けられている。
イ.情報交換の対象となる租税
 条約の適用対象税目が対象となる。
ロ.交換すべき情報の範囲
 行政上の慣行に抵触するもの等一定の制約を設けているが、両当局間の合意によりケース・バイ・ケースで決められることもある。
ハ.情報交換の方法
 相手国の課税上有効と思われる課税資料を積極的に収集したり、法定資料のように自動的・画一的に資料化するもの、個々の事案ごとに反面調査を依頼するもの等の方法が採られる。
二.守秘義務
 国内法で定める守秘義務は、情報交換によって入手した資料についても適用される。

(3) 相互協議
イ.概要
 租税条約の規定に反する課税を受けたり、受ける恐れがある場合には、国内法で定める救済手段の他に、締約国の権限ある当局に対して相互協議の申立てをすることができる。
ロ.申立ての機関制限
 多くの租税条約においては申立ての期間制限を設けていないが、日中租税条約のように3年といった期間制限をおいているものもある。
ハ.相互協議の内容・方法
 条約の解釈や適用に関して、権限のある当局が直接意見交換を行うことができる。
二.合意後の取扱い
 合意がなされれば、その合意に従って課税上の手続き(更正、納税、還付等)が行われる。
 わが国の場合には、この合意は、更正の請求をなし得る後発的事由及び国税の更正・決定等の期間制限の特例の対象とされ、国税通則法にその規定が置かれている。